首都の移転

 かねてから話題になっていた首都の移転計画が国会で承認され、計画がスタートした。カリマンタン島南東部に、25万ヘクタールを開発して新首都を建設するという。移転完了を2045年とし、2年後の2024年には大統領宮殿等の一部の移転を実施するとしている。移転理由は、ジャワ島への人口集中、経済集中を分散させる。ジャカルタ市の地盤沈下、洪水、交通渋滞等も移転理由になっている。

 私は、移転計画が話題になった時から、計画は無謀だと思っている。計画が実行されてもいづれ頓挫すると確信している。その理由は、

 第一に、大統領を含む政治家達の心構えにある。殆どの政治家たちは、任期中の実績作りと、私欲を肥やすことしか考えていない。国のことなど考えている政治家がいるとは思えない。任期中に完工するプロジェクトを優先して実行して実績を作れば、任期後に完工するプロジェクトなどは、どうなっても良いという考えしか持っていない。従って、5年以上の長期に渡る計画などは、詳細な検討が等閑になっている。大統領や大臣が変われば、それまで進んでいたプロジェクトは頓挫、中止になってしまうのだ。

 第二に、費用の問題がある。25万ヘクタールもの土地に新都市を建設するのだから、建設費用も膨大な数字になると思われる。どこから捻出するのだろうか? 民間投資を期待するという報道があったが、誰が投資するのだろうか? インドネシアは、ビジネスにおいて魅力のある国だと、自分勝手に考えすぎていないか? 中国の借款で始めた、高速鉄道のプロジェクトを見れば一目瞭然、政府の負担なしとして始めたプロジェクトが、最終的には国家予算を投入している。首都移転事業も民間投資が無く、国家予算のみで建設する羽目になるのは目に見えている。何故、コロナ禍の今、スタートするのだろうか?

 第三に、移転計画の詳細な施工・費用が検討されているのか疑問である。国内でやるべき事業は山積している。インフラ整備、教育、所得向上等々、いくら予算があっても足りない位である。ジャカルタを再生する費用と、新首都建設費用との比較検討をしたのだろうか? インフラ整備をせず放置しておいて、安易に新首都移転を掲げているのではないかと疑問がある。私は、ジャカルタのインフラ整備を確実に行えば、首都機能の維持は十分可能だし、費用も少なくて済むと考えている。地方再生については、別途対策を考えれば良いのだから。

 インドネシア人は、場当たり的な思考の人が多く、何にでも試してみようとする。将来の長期的な予想や、計画を考えることが苦手な人が多い。インフラプロジェクトをとってみても、以前はJICAが長期の計画を策定し、インドネシア政府に提言、実行されていたが、インドネシア政府は自国で対応可能として、JICAの専門家派遣を断った。私は、言いたい。「インドネシア政府よ。計画の詳細をJICAに検証して貰いなさい。」