デビィ夫人との夕食

 15年以上も前になるだろうか、ジャカルタを訪れていたデビィ夫人を紹介して貰い、夕食を一緒にさせて貰ったことがある。当時は、まだ夫人がテレビで活躍される前であった。デビィ夫人と私の友人、私の3人で食事とをし、カラオケに行った。以前から、毒舌で有名な夫人だったので、興味津々、楽しみだった。

 デビィ夫人の第一声は、”ごきげんよう。イブ・デビィです。宜しく!”。私の第一印象は、思っていたより随分と小柄で、美人、上品だった。早速夕食の鮨店で、店長に向かって、”おだまりなさい。うるさい人ね!”と𠮟りつけた。デビィ夫人と気が付いた店長が、我々の会話に割り込んで来たので腹が立ったのだろう。2時間余りの食事の間に、私の質問にすべて答えてくれた。

質問1。スカルノ元大統領が日本語で求婚したと言うのは本当か?

  ー 英語です。そんな短期間で日本が話せる訳がない。

質問2。第一夫人の娘のメガワティ女史が大統領選に立候補するが、応援しないのか?

  ー 政治には興味が無いので、誰の応援もしません。

 続いて、次のように話してくれた。”大統領夫人の時には、すり寄ってきて私を利用しようとしていた日本の商社は、スカルノ大統領が死去してスハルト大統領に代わった途端、皆遠ざかっていった。自分が政治に利用されるのはもう沢山だ。”

質問3。アメリカの社交界での暴行事件の真相は?

  ー相手が、私(女)を最大限侮辱する言葉を投げかけたから。

質問4。ジャカルタの空港での記者への暴行事件の真相は?

  ー私に付きまとう嫌いな記者がいて、邪魔だから髪の毛を引っ張って排除しようと

   したら、相手が鬘だったので手が滑って、私も転倒した。

質問5。テレビ番組での毒舌に台本はあるのか?

  ー番組には必ず台本(シナリオ)があって、100%自由に話すことは出来ません。

   少なくとも、私の発言の批判が私ではなく、局側に来る事だけは避けています。

質問6.テレビの娯楽番組に出演する機会が増えていますね?

  ーインドネシアで遺産の殆どを政府に没収され、無一文になったので、生きるため

   に、メディア関係の仕事を選びました。テレビ局には感謝しています。

 デビィ夫人と話していて感じたのは、自分の考えをそのまま相手にぶつけるが、決して押し付けない。嫌なことは嫌、駄目なものは駄目と言い、発言に対する反発やクレ-ムは自分自身が受け止めるというスタンスのようだ。普通は周りの反応を気にして言えないような事をはっきり言う、竹を割ったような性格の頭の良い女性であると感じた。

 2時間余りの食事で、デビィ夫人は日本酒を5号以上は飲んでいると思うが、全く酔った気配はなかった。食事を終え、支払いを済ませて店を出ると、デビィ夫人が店の前で待っていて、”ご馳走さまでした。”と腰を折り頭を下げてお礼を言われた。改めて、礼儀や品格の高さを感じた。