信じられない医者の診断

 30数年前、妻(インドネシア人)と付き合い始めた頃、妻が腹痛を訴えたので町のクリニックに連れて行った。私は腹痛前後の行動から、不衛生な物を食べたのだと思っていた。ところが医師は、妻に問診したあと、キャベツを食べるなと真面目な顔をして言った。キャベツは胃に良くないのだと言う。私は唖然としてしまった。インドネシアに来てまだ日が浅く、言葉も不自由だったので、根拠を聞くことは出来なかった。

 その後、私自身が色々な病気を患い、医者のお世話になったが、デング熱と肝炎以外は、問診だけで何の検査もせずに薬を貰う事が多かった。投薬ミスによる事故が多かったので、私は薬を飲む前にネットで効用などを確認してから服用するようにしていた。当然、医師の診断に対してもネットで症状を検索して、診断に間違いがないかと確認する。

 日本に比べて問診に頼る診断が多いのは、検査費用が高い事に原因があるようだ。血液検査、レントゲン検査などは、申告しないとしてくれない。検査をするたびに検査費用は前払いで、領収証を提示しなければ検査をしてくれない。ある程度の病気に対する予備知識が無いと、検査をすべきかどうかの判断も出来ない。高額な医療費や入院が必要な病気では、数万から数十万円相当のデポジットが必要になる。恐らく、後払いにすると、高額な医療費が払えずに、患者が逃げ出すからだろう。病院での治療は、富裕層しか受けられないのだ。

 数年前から政府が国民健康保険制度を導入し、全国民が加入している。制度上では保険証があれば、無料で治療が可能だが、治療レベルの高い病院では受け付けない。一般の病院でも、保険扱いと現金払いの治療には差があるらしい。少なくとも、技術的に優秀と思われる一流病院は、富裕層をターゲットにし、利益を優先したビジネスである。私のような外国人が入院すると、否応無くVIP病室に入れられ、請求書には会ったことの無い医師の名前の診察料が記載されている。良いお客様なのだ。

 インドネシア人の友人の子息に、内科医、外科医、歯科医になった者がいる。彼らに聞いた話では、意志の国家試験は無く、政府に認定された大学を卒業すれば医師免許が貰えるらしい。また、日本のようなインターン制度も無いようである。新米医師は、就職した病院で技術・知識を習得して育っていくらしい。救急病院の夜間対応の医師は、どの病院でも新米の総合内科医が多いのもうなずける。

 数年前に、妻が子宮筋腫のため、子宮摘出手術をシンガポールのエリザベス病院で受けた。手術直前になって、妻が不安になりインドネシアで手術を受けたいので、ジャカルタの医者を紹介してくれと担当の医者に言った。中国系の女医は、”インドネシアに推薦できる医者がいるなら、どうして多くのインドネシア人が治療のためにシンガポールに来るの。貴方もそうでしょう?”と言った。

 やはり、この国は医療後進国なのだ。